公式サイトロアの一つ、シャドウオデッセイの序章三巻 [ The Worst Cook in Grobb ]
Eylee Zephyrswell作―
恐怖と迷信で囚われたトロル、Kruzzは我々とともに旅をすることになった。仲間の中でダントツに奇妙だと思われそうな、我々の料理係だ。彼は我々が食そうと思いもしない食材、或いは挑戦する勇気がなかった材料を調達し、調理をしてくれる。しかし、彼のおかげで餓死を逃れたのは一度や二度ではない。
彼の存在は必要不可欠と思う人は少ないが、仲間から追い出すことを考える人は誰1人ともいない
―Kaltukを除いて……。彼は命の恩人だ。他の仲間もきっとそう思っているだろう。
第一章 
材料の内臓をぐつぐつと煮立つ窯の中へ放り込み、Kruzzは材料が液体に踊らされるのをしばらく観察した。満足した彼は、笑みながら踵を返したら“何か”にぶつかり、その反動で窯に跳ね返され、手を火傷した。そのぶつかった“何か”とはグロッブの料理長、Ttzorkのお腹だった。Kruzzは瞬く間に首に下げていた猿の尻尾のお守りを握りしめた。猿の尻尾はKruzzの目の前で落下石に押し潰された動物から剥ぎ取ったもので、お守りとして、随時持ち歩いている。
「まわりに気をつけな、グズ。」TtzorkはKruzzを威嚇した。調理場の作業員の手は止まり、揉め事がどう発展するか耳を傾けていた。
Kruzzは納得しない様子で背中を向け1人でブツブツとつぶやいた。「もっと痩せていればぶつかりゃしませんよ。」
空気が凍りついた―まるで時が止まったかのような静けさが辺りを覆った。そして、突然―大きな音とともにKruzzは宙を舞い、先ほど放り込んだ材料がぐつぐつと煮立っている同じ窯へと落ちて行った。Kruzzは身体中に走る激痛に耐え切れず、必至にもがき苦しみながら、窯の淵へと手を伸ばした―Ttzorkが待ちぶせていることを知らずに。「あたいのせいだと言うのかい?」彼女の声は怒りに満ちていた。「責任をなすりつけたいの? ずいぶんと生意気なことをするのねぇ。」Kruzzは沸騰している液体の中へと押し込まれた。彼の肌は高温の液体でただれ、身体を襲う痛みから逃れようと必死でもがき、自分を水の中へ抑え込む彼女の腕を振り払おうと暴れた。しばらくしたら、Ttzorkは彼を高温の水から引っ張り出して、地面へと叩きつけた。
TtzorkはKruzzより頭1つ分背が高く、身体のサイズが2倍ほどあり、魔女のような鉤の形をした鼻を持ち、眼玉は凹んでおり、顔中に傷跡があった。手は職業柄か、火傷の跡が数多くあった。Ttzorkは彼女なりのこだわりがあり、殺した獣の骨で髪をセットしていた。戦場で負った傷は故意的に傷口をを広げ、顔に跡が残るようにイジった。異性のトロルからは非常に魅力的であり、今まで数多くの異性を惹き付けた。KruzzはTtzorkにこれっぽっちも魅力を感じられなかった。どちらかと言うと、凄く嫌っていた。
「お前はカタツムリか?そこでずっと丸まっているつもりなのかぃ?」彼女は罵った。Kruzzは湧きあがってくる怒りを抑えた。ここで口を開いたらまた窯に入れられると考えたKruzzは、言い返せずに彼女を睨み返した。彼女は彼のみぞおちを蹴った。「作業を早く終わらせな。」Ttzorkはうんざりした様子でそれを言い捨て、踵を返した。周りの料理人の視線が注ぐ中、Kruzzは首にかけてあるお守りをぎゅっと握りしめ、深呼吸を続けた。
Kruzzはゆっくりと立ちあがった。地面に付着した傷口が再び裂け、Kruzzは痛みで声を抑えきれずに高い悲鳴をあげた。調理場の野次馬達は馬鹿にするように笑った。Kruzzは一番近い場所に置いてある肉専用の木製のバケツへ歩み寄り、中にある肉の山を覗き込んだ。普通なら血塗られた肉の塊をみていると心温まるのだった―が、今回は怒りがおさまらなかった。KruzzはTtzorkに毎日のように恥をかかされているので、許せなかった。楽しんで見ている調理場の奴らに対する怒りも相当なものだったが、Ttzorkに対する怒りと比べ物にならなかった。
木製のバケツに手を突っ込んだKruzzは、ワニの内蔵を掴んだ。Ttzorkのことを思い浮かべながら、内臓が破裂するまで握りつぶした。
「Ttzorkめ……」Kruzzはつぶやいた。「小汚い、憎きデブめ……。いつか後悔させてやる……いつか必ず。」
Kruzzは他のトロルと仲良くなるのが苦手だった。ストレートに表現すると、彼は“いじめの標的”だった。幼少時代からずっとそうだった。
Kruzzが嫌われる理由は明らかであった。彼は極端の臆病者であり、お守りを持たないと安心できず、流れに反するのを拒み、夜中に必ず悪魔除け用に特定な葉っぱを玄関に置いていた。彼は世間に嫌われており、逆に彼は世間を嫌っていた。彼は自分の世界にひきこもり、他のトロルたちを忌み嫌うようになった。
彼は大きな衝突音で起こされた。彼は楽しい夢―ナイフで敵を切り刻む夢―を中断されたので、邪魔したやつを睨んでやろうとKruzzは思った。彼は建物の外で音のした方角を見た。
この小さな石の建物では、自分の家を持っていない若い料理人たちが共有生活を送っていた。大半のトロルが騒音を無視をして眠っていた。Kruzzは周囲を見回し、壁に盾をぶつける音に注目した。
「おい、Rekecか?」と彼は問いかけた。早朝に射し込む微かな太陽の光はRekecを照らしていた。彼女は小さく、髪がよれよれしていて、大きい手の持ち主だった。Kruzzは大抵の人に下郎扱い
されていたが、Rekecのみ彼を普通のトロルとして扱ってくれた。それもそのはず、彼女も日頃からいじめられていた。盾は地面で前後に揺れていた―少し前まで回転していた様子だ。Rekecは手に血だらけのナイフを持っていた。Rekecは彼と視線が合った瞬間、目を大きく見開いた。Kruzzは質問してみた。「何があったの?」
「私は…」彼女は話し始めた。「朝ご飯用の肉を調達していたの。」
「じゃあ、なんでここに戻ってきたの?」Kruzzはぶつぶつと言った。
彼女は彼に背を向け、答えた。「忘れ物をしたの。」
「あ、そう。」彼は急に好奇心が薄れた。Kruzzは眠気で目が重く、二度寝したら心地良い夢の続きをみることが出来るかもしれないと思った。Kruzzはベッドに沈み込み、寝返りを打った。そして、奇妙なものを目にした。Rekecが立つ場所にもう1人いた―ような気がした。まるで彼女の影が勝手に壁を伝って動き回っていたかの様だった。しかし一瞬の出来事だったので、Kruzzは気にもせずに眠りに落ちた。
その日の調理場の雰囲気は奇妙だった。調理場の全員は大袈裟に感じるほど陽気に振舞っていた。
普通の日なら嫌がらせをされたり、不快になるような名前で呼ばれたのだが、今日は一切そのようなことはなかった。Kruzzは異常さを感知していた。なにかあるに違いない―そう思った。彼は周りを見渡すなど用心しながら、キノコの塩漬けを細かく刻む作業に入った。そして作業中に首に変な感触があった。Kruzzは瞬時に後ろを振り返ったらTtzorkが立っていた。
Kruzzは目を細め、彼女を見上げたまま質問した。「なに?」
「今夜、特別な注文が入ったのさ。」彼女は他のコックを見ながら、笑い声をあげた。「猿の尻尾の注文が入ったの。」
すると、Ttzorkは腕を伸ばし、Kruzzを押さえ込んだ。他のコックも加勢し、Kruzzの腕を押さえ込んだ。状況がやっと把握できたKruzzは喉が枯れる勢いで叫び、暴れる中、首元に大事にしていた猿の尻尾を奪われ、Ttzorkの手により細かく刻まれていく光景を目の当たりにしていた。Ttzorkは切り終わったら、一つ一つ口に入れ始めた。
「う〜ん。なんて美味なんでしょう。」笑みを浮かべながら言った。
Kruzzを押さえ込んでいた2人のコックはTtzorkが食べ終わったと同時にKruzzを開放した。Kruzzは十分暴れ叫んだので、体力切れだと思われた―が、自由になった瞬間、Kruzzは調理場にあった包丁に手を伸ばし、Ttzorkに飛びかかった。
Kruzzを再度押さえ込んだころにはTtzorkは既に死んでいた。地面は一面と血の海と化していて。その中でぽつんと立ったKruzzに視線が注がれていた。彼は笑った―最初は小さく……そして次第に大きく。彼は監獄へ連れて行かれる途中も笑い続けた。
門が閉じられて、もう笑えなくなっていた。胸の辺りが痛くなるほど、笑ったのだ。警備員は彼の姿をみて呟いた。「頭のイカれた奴だぜ。」
Kruzzは監禁所の角に横たわり、膝を腕で抱え込むようにして、身体を丸めた。彼は絶望感に満ちていた―が、Ttzorkがもうこの世から消えたことを思い出し、彼は小さく、くすくすと笑った―今の彼には笑うことが精一杯だった。彼は日が沈むのを見る事にした。太陽の光がサーパント・スパイン山脈の後ろに沈み、グロッブに夜が訪れた。しかし彼は、水平線の彼方より迫り来る怪物の軍隊に気づかなかった。
第二章 
先頃、さる冒険者の一行が Trakanonの巣を探索した折、古き時代の羊皮紙の山が見つかった。これらの紙片は袋詰めにされ、ひとまとめになっていたのだが、そこに書かれた内容は、知る人ぞ知る吟遊詩人 Eylee Zephyrswellが残した一連の記述であった。ノームのスカラーが調べたところ、文書の起源は “失われた時代”のまっただ中にさかのぼることが判明した。その文の山から取り出したる、この第3の物語は、ある集団の仲間に加わったトロルと、グロッブ村に舞い降りた 闇の軍勢について伝える。
Kruzzは再び夢から覚めた。いつかのように、大きな音に起こされたのだ。だが今聞こえた衝突音は、前と違ってひとつではなかった。Kruzzはかっと目を見開いて起き上がり、牢の壁まで這うように移動し、また座り込んだ。ふと見てみれば、牢屋の前で 2人の看守がうつ伏せの状態で倒れていた。さらに奇妙なことに、空一面に激しい嵐が広がっているではないか。夜明けの空は、インクのような暗闇と、青くほとばしり紫色に弾ける 強烈なエネルギーに満たされていた。何が何だか、Kruzzにはさっぱりわからなかった。わからなかったが、すぐにでも牢を出なければ とんでもないことになるのは目に見えた。彼は念のためほふく前進でにじり寄り、看守たちの体を調べた。2人ともすでに息絶えていた。
「いい気味だ」と彼はつぶやいた。腹の底からクツクツと笑いがこみ上げる。彼は鉄柵の間から手を伸ばし、片方の看守をずりずりと引き寄せた。そしてごそごそと血痕の浮かぶ制服をまさぐり、最後には鍵を取り出した。こうして牢から出られたわけだが、やれやれとひと息ついた時である。どこか遠くで、誰かが戦っているような音が聞こえて、Kruzzは心底 衝撃を受けた。まるで筋肉の1本1本が凍りついたかのようだった。彼は慌てて走り出し、パニックでつまずいたりよろめいたりしながら、ようやく見つけた岩の裂け目に身を隠した。そのまま裂け目に身を潜め、両手の筋肉を縮めたり緩めたりを繰り返しつつ、にらむようにして目の前の様子を観察した。Kruzzが姿を隠して間もなく、2人のトロルが戦いながら現れた。片方が相手を地に沈めては、相手も負けじと強打を返す。見つからないように Kruzzはさらに縮こまったが、そうしながらも細目で成りゆきを見守った。
1人はなんとRekecだった。そして相手も、同じクランの一員で、Brazztという男だった。Rekecは猛攻を繰り出していたが、Brazztも果敢に応戦していた。傍から観戦しているうちに、Kruzzはあることに気付いて驚いた。どうやら得体の知れない何かが Rekecに味方して戦っているようなのだ。その第三者は、いつかの晩に目にした(気がした)あの人影だった。けれど、2対1の劣勢にもかかわらず、Brazztの方が力で上回っているらしかった。じわりじわりと勝敗が決まり始めた、その時。世にも恐ろしい咆哮が轟き、1体の魔物が戦いの場に躍り出たのだ。突如として現れた魔物を目にして、あんぐりと口を開けるBrazzt。黒の魔獣は、ハサミのある腕を前に突き出し、その巨体ごと突撃した。Rekecはうまく脇によけたが、Brazztは動転して動けなかったのか、無惨にも真っ二つにされてしまった。飛ばされたBrazztの胴体が、Kruzzが隠れていた岩に振ってきた。Kruzzは拳をほおばって、悲鳴を漏らさないように、必死になって踏ん張った。
女トロルが魔獣に向かって歩み寄った。きっと彼女も真っ二つにされるのだ。Kruzzはそう信じて疑わなかった。だがどうだ、真っ二つどころか、2者は会話を始めたではないか。しかもその言葉は、これまでに耳にしたこともないような言語だった。Rekecが発していた声は、Rekecの声に聞こえなかった。そしてひとしきり言葉を交わすと、2者は一緒に去っていった。
Kruzzはまったく麻痺してしまった。逃げた方がいいのか、それとも隠れていた方がいいのか。そのままじっとしていれば、おそらく誰にも見つかることなく隠れたままでいれただろう。けれども逃げる道を選べば、いつかある時点で、逃げ切るのも無理ではないはずだ。幸いなことに、この牢屋は村のはずれにあった。逃走経路に関しては、何の心配もいらなかった。
やがて彼は決心した。いずれにしても、あまりに長くじっとしすぎて 体中の筋肉がひきつけを起こしていた。このままじっとしていることなど、とてもじゃないができそうにない。 決意したKruzzは、安全な隠れ処から滑り出て、全速力で駆け出した。そう、グロッブの方角に。
はじめKruzzは、自分がどこに向かっているのか 自分でもわかっていなかった。彼をガックに駆り立てたのは、彼の内なる本能だ。じっとりと重たいイノシュール沼の土を蹴り、Kruzzはその方角にひた走った。ガックは守りの堅い都市だし、安全なところに逃げるとすれば、そこだった。頭の中ではまた別の声がして、違う方向に行けとも叫んでいたのだが、いちばん大きく聞こえた声がガックに行けと言っていた。だからKruzzはガックに向かって走ったのだ。
突然、Kruzzは倒木にけつまづき、顔から沼の泥に突っ込んでしまった。ついてないなと不運を呪ったKruzzであるが、結果的にはそれで命が助かった。というのも、彼が転んで間もなく、後ろの方から話し声が聞こえてきたのだ。またもやパニックを起こした彼は、慌てて沼の深みに潜り、息を止めて隠れることにした。そしてもう息が続かなくなると、そろりそろりと頭を上げ、沼の葦からほんの少しだけはみ出す程度に顔を出してみた。そうして観察していると、遠くの方からトロルの集団がやってきて、彼の目の前を通り過ぎていった。一瞬、出ようかと迷ったが、あの魔獣が2体、のっしのっしと集団の脇を歩いていたので、その迷いもはかなく消え去った(もっとも、Kruzzは犯罪者という扱いだったので、よく考えれば、魔獣がいてもいなくても、出るわけにいかなかったのだが)。嬉しいことに、一行はガックに向かっているのではなさそうだ。だから彼らが視界から消え、ある程度の時間が経ったのち、Kruzzは沼からはい出して、再びガックを目指したのだった。猿の尻尾のお守りが、最後に少しだけ幸運をわけてくれたのだ。Kruzzはそう思って感謝した。
しかし一難去ってまた一難。幸運を思って立ち止まったそのとき、背後から邪悪な音が聞こえてきたのだ。見ると、あの闇の嵐のひとつが、沼に舞い降りてきたのである。嵐は木や草をなぎ倒し、その途にあるものを、虚無の空間に見境無く吸い込んだ。嵐に直接接れはしなかった葉群でさえも、影響を免れはしなかった。奇怪な色彩の力の流れが、幸運にも残った幹や葉っぱに焦痕を残す。さすがのKruzzも、ぼんやり眺める愚は冒さない。彼は悲鳴を上げながら、全速力で沼を突っ切り、嵐から逃げた。
立ち並ぶ樹々をなぎ払い、あと少しでガックというところまで来たKruzzだが、目の前に広がるものを見て、はたと立ち止まってしまった。都市の前には、あちこちで死体が山と積みあがっていた。地面は一面血の海で、えぐれ具合に戦いの激しさがうかがえた。それは壮絶な光景だったが、その凄惨さとは裏腹に、一面静まりかえっていた。Kruzzはためらいを覚えたが、ここまで来てしまった以上、むざむざ引き返すわけにもいかない。彼はガックの門扉に走った。
ホールは静寂に包まれていた。Kruzzは「おーい」と呼びかけてみたが、返事は返ってこなかった。彼は神経を焦がす炎に急かされて、苔に覆われた石畳を駆け抜けた。 Kruzzがようやく足を止めたのは、大広間らしきところに着いたときだった。しかしである。彼はいったいどこに行こうというのだろう? いったい何を期待していたというのだろう? 最初に走り始めたときから、彼はガックをゴールと決めて足を動かし続けていた。ずっと走ってこれたのも、ゴールがあればこそである。今やそのゴールに到達してしまった。他に行くべきところはなかった。けれど、ちっとも安心した気がしなかった。まだ何か、やるべきことが残っていたからだ。Kruzzは軽く渋面を作り、近くにあった壊れた椅子に腰かけた。そしてこれからについて考えようとした。
だが、休めたのはほんの一瞬に過ぎなかった。現在の状況を、自分なりに解きほぐそうとしたその時、耳をつんざく絶叫が部屋中に響いたのだった。なんと、あの魔物が、いろんなものを蹴散らしながら、そして粉塵をまき散らしながら、別の入口から現れたのだ。Kruzzは飛び上がり、悲鳴とともに急発進した。しかし甲斐なく 壁際に追い詰められてしまった。そのとき彼は、まるで電撃に打たれたように、深く悟ってしまったのだった。すべては無駄なあがきなのだ。逃げたとしても、その後いったいどこに行く? 死ぬより他に、どんな選択肢が残っているというのだろう?
ハサミある巨腕を振り回しながら、魔獣がにじり寄ってくる。なすすべもなく、Kruzzは壁に体を押し付け、縮こまった。相手がさらに距離を縮める。とっさに、すぐ脇の石のテーブルに潜り込むKruzz。怪物はあくまでも彼の後を追い、テーブルを粉々に粉砕した。Kruzzの悲鳴が虚ろに響く。瓦礫がぱらぱらと落ちてくる。魔物は大きくいなないたけれど、その声はくぐもった音になり、だんだん遠ざかっていった。Kruzzはとうとう気を失ったのだ。
暖かな波動が体中を駆け巡る。Kruzzは優しいエネルギーを感じて目を覚ました。自分を取り巻く世界の空気を大きく吸い込み、そしてむせた。困惑のとした意識の向こうから、うっすらと声が聞こえてきた。 「なあってばよ。どうしてこんなクズを助けなきゃならんのだ」しわがれた声がそう言った。 「ここでいったい何があったのか、彼なら知ってるかもしれない」落ち着きのある声がそれに答えた。「きみとNurggも 一部を目撃したかもしれん。だが彼は、核心に触れたみたいじゃないか」 「トロルの口から出る言葉なんぞ、オレ様は信じねえからな」最初に聞こえてきた声が、憤懣やるかたないといった調子でそう言った。「まあ、だがよ。それしか方法がないってんなら、好きにしな」 「じゃあ、好きにしよう」
Kruzzは体ごと抱え上げられた。そして運ばれ、やさしく寝かされた。だんだん視界がはっきりしてくる。どうやら何人かに取り囲まれているようだ。皆が彼のことを注意深く見守っていた。 Kruzzは思いきり顔をしかめながら、ドワーフらしき男を見た。そいつは苦虫をかみつぶしたような顔をしていたが、その視線の先にいたのは… ハラスのバーバリアン?だろうか。Kruzzは以前にも、奇妙なほど白い顔した、顔立ち柔かなハラスの男たちを見たことがあったが、彼らは全員死んだはずだ。ゆえにバーバリアンという種は、少なくとも彼の頭の中では、とても理想的な状態で… すなわち死んだものとして認識されていた。ところがこいつは自分の前に立ち、びっくりするほど大きな剣を抱えて、100%生きている。Kruzzはたちまちこの男のことが嫌いになった。というより正直、そこにいた全員のことが嫌いになった。こいつら、ぶちのめしておいた方がいいんじゃないかと、Kruzzはそう思った。彼は大声でわめきちらし、両手両足をムチのようにばたつかせた。
「ほら、見てみろ!」とドワーフが言った。「だから言ったろ、うまくいくわけねえってよ。こいつを放っとくと、オレ様たちで見つかっちまうぜ!」 バーバリアンは静かにするようにドワーフに促すと、Kruzzに向かって目を細めた。相手はトロルの瞳を真っすぐ見据えてくる。「ここは、静かにしてくれないか」と男は言った。「我々に全滅してほしくないならな」
「見つかって死んじまえ」とKruzzはトロル語でつぶやいた。「そしたらオデは、ハッピーヤッピーだ。でも、オデ死んだら、ハッピーなくなる。だからオデ、静かにしてやる」そこまで口に出したところで、彼は一味にオーガまでいて、そのオーガがぴくりと反応したのに気付いた。オーガの眉が吊り上がり、まるで殴りかからんばかりに、拳をぎゅっと固く結んだ。Kruzzはしゅんと小さくなって、ノーラス共通語で話をすることにした。「オデ、死にたくない。だから静かにするよ」 いやいやながらも、Kruzzはひとまず大人しくなり、あらためて一味の様子をうかがった。バーバリアンの女がいる。さっきのオーガの男(どういうわけか、見覚えがあった)がいる。いろんなエルフの血が混じっている女もいるし、おまけにいやなドワーフもいる。、そして最後に… Kruzzの視線はリーダーらしき男に戻った。こいつらみんな大嫌いだとKruzzは思った。中でもドワーフは大大大嫌いになった。なぜなら相手も、Kruzzのことを大嫌いだと思っていたからだ。
「ここで何があったの?」とバーバリアンの女が尋ねた。 「ユー、誰ぞ? 話がしたいなら、まず名乗れ」 Kruzzは女を睨み返した。「だいたい、どうしてここにいるんだば」 一同は視線を交わし合った。やがてバーバリアンの男が もう一度口を開いた。「俺の名はBayle。彼らはみんな俺の仲間だ。俺たちは、あの嵐と魔物を追ってきた。なんの話か、わかるよな?」
Kruzzgがまとった皮肉の鎧も、必死になってかき集めた自信も、あっという間に崩れてしまった。彼はガタガタ震え始めた。テーブルの端で、エルフの少女が彼のくるぶしに手を置いた。Kruzzはぱちくり瞬きをして、反射的に軽いヒステリーを起こした。だがすぐにまた寝転んで、ガタガタと震え始めたのだった。
「それはイエスということかな?」とバーバーリアンの男が尋ねる。Kruzzはもう一度、一味の1人1人を見つめた。男はふうとため息をついた。「協力してもらえないのなら… 残念だが、置き去りにさせてもらう」 男はそういって背を向けた。 頭で何か考えるより先に、言葉の方が飛び出した。「やめて! ダメ!」 Kruzzは両手で口をふさいだ 。そんなことを言ってまうだなんて、自分でも信じられなかった。 男は片方の眉を上げた。「ならば、協力するということかな?」 「そうだ」とKruzzはうなずいた。同時に、打ちのめされてしまった。あの魔物と嵐のことを思い出してしまったのだ。「オデ、何でも答える。だから… 助けてくれ」 バーバリアンは仲間たちを見つめた。肩をすくめる者もいれば、うなずき返す者もいた。あのドワーフすら、どうかしてるぜとプンプンした顔を見せたものの、最後にはブツブツ言いながら、首を縦に振ったのだった。
「決まりだな」と男は言った。「では、初めからお聞かせ願おう」
Kruzzは不承不承ながら、一部始終を語り始めた…
Kruzz Skullcleaverは、こうしてイサーノートと共に過ごすことになった。正直なところ、あの日我々は、最良の決断を下せたのだろうか? もちろん、下せた。私はそのように信じている。Kruzzは決して英雄的な男でも、熱意にあふれた男でもなかったが、私には救済できる人物だと思えた。彼を仲間に引き入れていなければ、我々の旅路は全く違ったものになっていたかもしれない。あるいは、そうでもなかったかもしれないが、結局は誰にもわからない… 宿命というものを疑うことは、私の本分ではないのだから。
いわんや、トロルと共にノーラスを救う宿命をや。
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